大企業、強国からはただ逃げる、従うという方法しか道はないのか。
ビジネスとは「血」こそ流れないがまさしく現代における戦争である。
〜前編はこちら〜
一ヶ月でハコモノが完成。こんなにお金がかかるのか。
建築期間は考えていたより早かった。
「建てた」というよりは「組み立てた」というほうがしっくりくる。
自己所有になるというのに建築費用はイレブンPMが全額用意、先方指定の建築業者が建築工事を施工をするので他人事のような気がしてならない。意見を出すつもりもないが、彼らは聞く素振りもみせない。
業者とは一度だけそれも軽く工程確認を行ったが素人のアル男にはさっぱり意味が分からなかった。
アル男の日常はいつも時間を持て余している。
それでも人並み以上に食べていけるのだ。少しだけ申し訳ない気持ちもあり自分では割りと控えめな性格だと思っている。
通常、マイホームの建築だと現場で働く作業員へ冷たい飲み物など差し入れを持っていったりするものだが、アル男の頭の中には「差し入れ」などという気の利いた言葉などはなかった。ただ、時間を潰すかのように毎日何度も愛犬を連れては工事現場を往復し、たったひとこと「ご苦労さま」も言えず目があえば軽く会釈をするくらい。それも日が経つに連れ次第に目が合う回数も少なくなっていったがアル男それに気付いていない。
そして、約一ヶ月で完成。
イレブンPMから入金された建築費用(協力金)が4,500万円ほどあったがそれも通帳をみれば次の行では同額の出金。無論、通帳残高に増減なし。
こんなプラモデルみたいな組み立てで造った建物が4,500万円も?ケチな性分であるアル男は延べ床面積で60坪ほどになる店舗を見つめ、ふとそう思った。
※大抵の場合、建築業者からイレブンPMへ幾らかのお金が流れている、と後日聞く。
受取家賃からは建設協力金というものが引かれるらしい
さぁいよいよオープン当日。
簡単なセレモニーを行い(というかセレモニー中に営業は開始されていた)、いよいよアル男の町にもイレブンPMが出来たのだ。
アル男は営業には一切関係のない一介の不動産オーナーである。
そのためセレモニーに招待はされたものの特にスピーチする場面などはなく。また15台は停めれる駐車場には大勢の人が集まってきていたのでどこか踏まれては困る!と愛犬を自宅に置いてきたためどこか心細く、セレモニーの途中で帰宅していた。一応、美味いといわれているおにぎり二つとお茶だけ買ってみた。
しかしそれよりも気になるのが家賃。
こればかりは初回が振り込まれるまではどこか心配だったがなんとか無事にオープンの数日前、指定した口座を記帳するとイレブンPMより前家賃としてちゃんと入ってきた。
契約書では月額税込で約84万円。
振り込まれたのが 約59万円。
なぜ25万円近く少ないのか。
イレブンPM本部の若い仕事の出来そうな男と2回目の打合せで細かく聞かされたので驚きはなかった。
もちろん、その時は驚いた。
建築費用を全部出してくれるが、利息は付けないから家賃と相殺して返して頂きます、と平気で言ってくるもんだから。
ただ、彼のその後の説明も丁寧で冷静に考えればそれは当たり前、いや利息が付かないだけ良い条件だろうと納得したものだ。
そして決め手となったのが、
「アル男さん、15年後からは悠々自適ですよ、家賃も相場より高めの坪14,000円ですし」というセリフ。
※建設協力金の約4,500万円は15年(180回=1回あたり約25万円)で返済という条件。よって15年後からは振り込まれるのが約59万円ではなく契約金額満額の約84万円に。
まぁ、アル男所有の土地も無借金。協力金が引かれても生活になんら困ることはないのだが。
斜め向かいに同業店舗が出店してくるそうだ。
そのイレブンPMは素人が見ても流行っているのが分かった。
地方の田舎町だが駐車場はどの時間帯も埋まっている。
こんな若者がこの町にいたかというくらい夜も若者を中心に人が溢れていた。
田舎町の主幹道路沿い、それも片道車線。
店舗前の道路は片道車線がちょうど良い。右折もしやすいからだ。
だからお客も寄り易い。
そして月日の流れは早いものでもう3年も過ぎた頃、
なにやら町が騒がしい。
そう繁盛を聞きつけたライバル店が斜め向かいに出店してくるというのだ。
そして値下げお願い文書が届いた。
そのライバル店が出来てこれまた月日がたち7年ちょっと。
その他にももう一店舗近くにやってくる、などという噂もあったがいつの間にかこの業態の将来性にも暗雲が立ち込めてきたためその話しも聞かなくなり、そして実際に来ることはなかった。
アル男のイレブンPMはどうなったか。
ライバル店の出店により一時的に売上は減ったようだが今はなんとかやっているようだ。もちろん最初の3年間の賑わいはないが。
ただ、一介の不動産オーナーであるアル男にはそのイレブンPMの業績が実際のところどんなものなのか知る由もなかった。また特にイレブンPMとはここ数年、電話でのやり取りをした記憶もなかった。
そんな頃に届いたのが前編冒頭の手紙だ。
「現在、アル男様との間で締結中の建物賃貸借契約につき、
まことに勝手なお願いではございますが、月額賃料を
◯◯円に減額して頂きたく本書面にてお願い申し上げます」
(補足)来月の家賃から値下げさせて下さい、と書いてあった。
最初に思わず笑い、そして怒りが込み上げた後、
アル男がとった行動は「電話すること」だった。
かけた相手は確定申告時にだけ会うあのあまり好かない税理士だった。
弁護士にお願いすると多少なりとも手数料を取られるだろうと判断(仲の良い弁護士も居ないというのもあり)したアル男はどこかセコく、この税理士ならば相談料は取らないだろうと考えていた。というか確定申告料を払っているだろう?という思いもあった。
そんな彼が空いている、というのでその電話後すぐに事務所へ押しかけ、起こった出来事を一通り説明し、本部からの手紙をみせた。
彼は手紙を読むなり、
以下、3つのアドバイスをアル男に告げた。
・この値下げ要求、こちらからは無視する
・そして後日先方から電話、直接ご自宅に来たら書面、そして印を押してもらう事
(その提案書には本部の正式名称、角印はおろか、作成日付もない、どうも営業部の判断で提案しているようだ、また何か反論された時の言い訳として、あえてそうしているようだ、と言われた。)
・(出店すると噂のあった)同業他社店舗開発本部の電話番号を調べ出し、そこへ電話をかけて「貸したい、そして幾らになるか」と聞く事
改めて詳しく読めば読むほど、頭に血が上ってきた。
イレブンPM本部からのこの手紙、小さな文字では「近隣相場が坪1万円に下がっている(アル男は坪14,000円で貸している→実際の相場は14,000円は高めかも知れないが12,000円前後は幾らでもある)〜近年人件費が高騰し〜光熱費が高騰し〜」などと言い訳が書かれている。
このイレブンPM、地元エリアは正確には別会社が運営をしていて地元新聞紙(商工リサーチまとめ)の経常利益ランキングでは常にベスト30には入っているのだが。
更に手紙を読み進めると、この相手がいう家賃相場の出処が〜数年前の地場シンクタンク、◯◯銀総合経済研究所の調査による〜とも書かれている。
なんだろうこの虚無感。
自社にとって都合の良いことしか言ってこない。
・素直に最初の家賃設定が高かった、
・担当者が会って、直接話しかけても良いのではないか、
・実際どのくらい業績が落ちたのか説明が欲しい、
・なぜ突然、しかも来月からなのか、
アル男には資金的な余裕もあった。
正直、少し高めの家賃かな、と思うところもある。
今回の値下げ要求だって上記のとおり順序さえ
間違わなければ話しを聞くことも出来たのだ。
終わりに
イレブンPMのエリア担当会社に何があったのか分からない。
ただその後、イレブンPMが全国で同様の要求をしている、そして半数以上が泣く泣く要求をのんでいる、という情報を知人から聞いた。その情報源がどうもインターネットからだというのだが真偽のほどは分からない。
パソコンが苦手なアル男は自分で調べることが出来ないからだ。
そんなにあるというならば普通、
新聞、テレビ、雑誌で聞くはずなのにとても不思議だ。
その後?
アル男は少しだけ勇気を出して行動したようです。
「怒り」も行動力をつけるようですね。
アル男の怒りが静まり返った時、
また何かしゃべってくれるかもしれません。
と書き終わった頃、
次は何でしょうか?
誰かがやってきました。
トラパレスや大西建託から営業が来た?
「え?なになに?アパートを建てると・・・
えぇ、おぉ!そんなに儲かるんですか!」
「詳しく聞きましょうか!」
それでは。ごきげんよう。